数理情報科学セミナー 2002


4 月 17 日 水田義弘(総合科学部・教授)
距離空間上のソボレフ関数について

ソボレフ関数は,偏微分方程式の解の性質を調べるとき,有用な道具となる. ソボレフ関数は,偏微分がルベーグの $L^p$ 可積となるものである. 最近,距離空間上でソボレフ関数を定義する試みが盛んに行われている. この研究は始まったばかりであるが,さまざまな方面に応用が期待される. 本講演では,最近の研究について簡単な報告を行う.

5 月 22 日 西井龍映(総合科学部・教授)
リモートセンシング画像の統計モデルとその土地被覆分類への応用

グローバルな環境計測の目的の一つに土地被覆の判別がある。 たとえば、珊瑚礁や森林面積の時系列的変化を調べるには、 特定のカテゴリの検出がまず必要となる。ここでは 衛星や航空機搭載のセンサにより観測された多重分光画像や レーダー画像を用いて,地表面がどのようなカテゴリで覆われているか を判別する統計手法について考察する。 まず、各カテゴリでのスペクトル分布、およびカテゴリの空間分布に対して、 それぞれ多変量正規分布、マルコフ確率場でモデル化する。 そしてこのモデルの事後分布を最大化することにより、カテゴリを推定する。 本手法は Switzer のスムージング法の自然な一般化と見なすことができる。 さらに本手法の局所的な性質を調べ、実データに適応しその有効性を示す。

6 月 19 日 今野均(総合科学部・助教授)
可解格子模型と量子群

1次元や2次元の格子上に定義される統計力学模型のなかに、 可解格子模型と呼ばれる一群がある。これは解けることが ある意味で保証されている模型たちである。ここでは、まず、 その典型であるハイゼンベルグ スピン鎖模型を例にとり、 その可解性の拠所となるヤン-バクスター方程式に基づいて、 量子群と呼ばれる代数構造を導出する。次に、量子群の表現を 知れば、逆に可解格子模型が定式化できることを示す。 さらに深く量子群の表現を用いると相関関数の計算も 実行できるのだが、この辺りの話やヤン-バクスター方程式の 楕円関数解に伴って現れる新種の量子群の話も簡単に解説したい。

9 月 30 日 鈴木紀明 (名大・多元数理)
Mean value densities for temperatures

$(n+1)$-次元 Euclid 空間の有界領域 $D$ に対して,次を 満たす関数 $K(x,t)$ を(熱方程式の平均値に関する) $D$ 上の密度関数と呼ぶことにする: \vspace{1ex} (A) $K(x,t) > 0 \ \ \mbox{a.e. on $D$}$, \vspace{1ex} (B) $\overline{D}$ 上で熱方程式を満たすすべての $u(x,t)$ に対して,次の等式 が成り立つ: $$ u(0,0) = \int\int_D K(x,t)u(x,t)dxdt \leqno(*) $$ \vspace{1ex} 良く知られた重要な例は $D$ が熱球(境界がガウス核の等高面)の場合で,$\alpha >0$ のとき, $$ K(x,t) := \mbox{const.} \frac{|x|^2}{(-t)^{(n+4 - 2 \alpha)/2}}\exp \left ( \frac{(2\alpha - n)|x|^2}{4n(-t)} \right ) $$ とすれば $(*)$ が成り立つことが知られている(cf. \cite{W}).考察する問題は \vspace{1ex} (I) 密度関数が存在する $D$ は何か? (II) 有界な密度関数はいつ存在するか? (III) bounded away from 0 の密度関数はいつ存在するか? \vspace{1ex} \noindent である.調和関数については対応する結果が \cite{HN} にある.それによれば,原 点を含む すべての有界領域において有界な密度関数が構成でき,さら にその領域の境界が滑らかならば (III) も満たすものが存在する. ところが,熱方程式の場合は状況がもう少し複雑になる. まず,簡単な考察によって,$D$ 上に密度関数が存在す れば $\sup\{ t; (x,t) \in D \} = 0$ であること,すなわち,$D$ は 原点 $(0,0)$ ``下側"にあることがわかる.さらに,$D$ が $$ D = \{ (x,t); |x| < \varphi(t) \ \ (-1< t < 0 )\}, \ \ \ \mbox{$\varphi$ は $(-1,0)$ 上の正値連続関数} $$ の形のとき, (1) $\varphi(t) \approx (-t)^{\beta} \ (\beta \geq 1/2)$ ならば密度関数は存 在しない. (2) $\varphi(t) \approx (-t)^{\beta} \ (\beta <1/2)$ ならば密度関数が存在す る. (3) $D$ が有界な密度関数を持てば,$D$ は(すべての)熱球の原点近傍を含む. (4) (2) の場合でも (III) を満たす密度関数は存在しない. \vspace{1ex} \noindent などがわかる($\beta \geq 1/2$ なら原点は $D$ に対する(熱方程式のDirichlet問 題)の正則点で ある.また,熱球の境界は原点の近くで $\varphi(t) = (2n(-t)\log(c/(-t))^{1/2}$ である). これより,$(0,0)$ を頂点とする三角形には密度関数は存在しないこと, 熱球には有界な密度関数は存在しないこと,原点が上辺にある長方形では有界な 密度関数を構成できるが(III)は満たさないことなどがわかる. \begin{thebibliography}{99} \bibitem{HN} W. Hansen and I. Netuka, Volume densities with the mean value property for harmonic functions, Proc. Amer. Math. Soc., 123 (1995), 135-140. \bibitem{W} N.A.Watson, A theory of subtemparatures in several variables, Proc. London Math. Soc. (3), {\bf 33} (1976), 251-298. \end{thebibliography}

10 月 30 日 吉田 清 (総合科学部・教授)
移流項をもつ反応拡散方程式系について

$t$ を時間変数とする関数 $u(t)$,$v(t)$ が関数 $f(t,u,v)$, $g(t,u,v)$ を通し て $$ \begin{array}{l} u_t=f(t,u,v) \\ v_t=g(t,u,v) \end{array} $$ なる,関係があるとき,$u$, $v$ は 反応 $f$, $g$ によって,変化している.更 に $u$, $v$, $f$, $g$ が空間変数 $(x,y)$ の関数で $$ \begin{array}{l} u_t=d_1\Delta u+f(t,x,y,u,v) \\ v_t=d_2\Delta v+g(t,x,y,u,v) \end{array} $$ を満たすとき,拡散係数 $d_1$, $d_2$ を持つ反応拡散方程式系という.今回は更に $u$, $v$ を何かの密度のと見たとき,この密度変化にこれらが流れ込む(出る)効 果をもつ方程式系を粘菌の成長方程式や,半導体デバイス方程式を通して考える.

11 月 27 日 島 唯史 (総合科学部・助教授)
完備K\"{a}hler 空間上の分岐被覆について

要旨: 複素空間論において現れる以下の型の命題について 考える。: $X$, $Y$ を複素空間、$\pi:X\to Y$ を性質(A)を持つ正則写像 とする。この時$Y$ が性質(B) を持つならば$X$ も同じ性質(B) を持つ。 性質(A),(B) に何を当てはめるかによって複数の 命題が与えられる。真な命題として知られているものとしては、例えば (A)として有限写像, (B)としてStein 空間としたもの。 また、(A)として離散ファイバーを持つ正則写像 (B)としてK\"{a}hler 空間を与えたもの、などがある。今回 熊本大の阿部氏、東大の神氏 とともに(A)として局所半有限正則写像、(B)として完備K\"{a}hler 空間を当てはめた場合について示すことができたのでそれについて 報告したい。

12 月 18 日 柴田 徹太郎 (総合科学部・助教授)
単振り子の方程式とその周辺

古くからよく知られている微分方程式に、 単振り子の方程式がある。この講演では まず初めに、 この単振り子の方程式の導出からはじめ、 その解の基本的性質を わかりやすく初等的に解説する。さらにこの方程式 の解が境界層を持つような場合を考え、 その解の漸近的な振る舞いについて考察していく。

1 月 29 日 宮尾 淳一 (総合科学部・助教授)
動的視覚言語としての手話とその伝送

概要:視覚により認識する言語は多くあり、通常の文字に よる表現も視覚言語である。ただし、文字による表現は 静的である。ここでは、動的な表現による言語に ついて考察を行うこととし、手話を対象としてその 特性について解析し、その特性を利用した 低ビットレート手話動画像伝送について述べる。


数理情報科学セミナー