数理情報科学セミナー 2003


2 月 10 日 三河 聖(理学研究科・数学専攻・D1)
2種の生態系に対するLotka-Volterra方程式の解析

種間の相互作用によって、2種の生物の個体数がどのような変動を示すかを数学的に 表した方程式は、アメリカの数理学者A.J.Lotka(1925)とイタリアの数学者 V.Volterra(1926)によって初めて独立に提示されました。彼らが示した種間競争や捕 食者-被食者相互作用を考慮した方程式は、現在でも生物の種間相互作用を取り扱う 方程式として基礎的な役割を果たしてきています。
この講演では、このLotka-Volterra方程式を、力学系の定性理論における基本的な概 念などを用いて解析していく方法を紹介したいと思います。

12 月 10 日 小泉 伸(尾道大学)
標本定理の拡張

周波数帯がある一定の有界区間にある信号は,標本と呼ばれる可算個の時間におけるその信号の振幅で再構成されることが知られており,標本定理と呼ばれている。この定理はその後いくつかの方向に拡張された。一つはWeiss(1957)やKramma(1959)に端を発しており,標本定理をSturm--Liouville型の微分方程式が与える固有関数系による展開と解釈するもので,これは1990年以降にZayedやEveritt等により発展させられ,様々な種類の新しい標本定理が得られている。他の一つは群上の調和解析を用いた解釈でKluv\'anek(1965)による局所コンパクトAbel群上の標本定理が得られている。その後,いくつかのコンパクト群では熊原,江口,江端先生等により群上の標本定理が得られている。では非可換で非コンパクトな群ではどうか。ここではZayed達の結果を応用することにより,非可換で非コンパクトな群への標本定理の拡張の可能性を考察する。

11 月 19 日 加茂 憲一(国立がんセンター)
全国がん罹患数の推定方法

全国がん罹患数は、地域がん登録から得られたデータを基とする推定値です。本講演ではその推定方法に関する検討を行います。現在採用されている方法は地域の登録精度に左右されやすい方法でありながら、我が国の登録精度は諸外国に比べ低い傾向にあります。従って推定罹患数はその影響を受け、過小評価されている可能性があります。がん登録自体を改善し情報の精度を向上させることが急務ですが、その前にがん登録が改善された時の罹患数を予測し把握しておく必要があります。そこで今回は登録精度に左右されにくく安定した推定罹患数を得る方法を提案します。この方法はがん登録が完全な状態を数学的に仮定して罹患数を得るものです。今回の方法で推定された全国がん罹患数は、現在報告されている罹患数を3割ほど上回るものでした。
登録精度が完全な状態での罹患数を推定するために今回用いた数学モデルは非常にシンプルなものです。しかし現状は様々な要因が複雑に絡み合っていますので今後モデルの改良(特に年齢階級別に罹患数を推定できる方法)が必要と思われます。

10 月 29 日 高野 秀敏 (総合科学部)
無限集合の個数について

概要:実数に無限小・無限大を加えた数を超実数という. 無限小や無限大は 1 点ではなく, たとえばある無限小より小さい無限小が存在する. 超実数は数学的に厳密に構成することができ, そこでは極限の直観を取り戻すことができる. しかし, 標準的な超実数の構成には数学基礎論的手法が用いられており, その理解のためには, ある程度の基礎論に関する知識を要すると思われる. ところが実は, 超実数の構成は実数の構成によく似ており, 必ずしも数学基礎論の知識を必要としないと思われる. ここでは基礎論的手法を用いない無限大・無限小の定義とその性質について簡単に紹介する.
無限大が扱えると, 無限集合を数えることができそうである. ここでいう個数とは, たとえば自然数 N の個数を ν としたとき, N-{k} の個数は ν-1 となるような数のことである. この無限個数について簡単に紹介したい.


7 月 9 日 浅野 晃(総合科学部)
Mathematical morphologyによるテクスチャ解析と歯科X線画像処理

概要:Mathematical morphologyは,画像中の物体形状を計測・操作する理論的枠組みです.今回は,われわれが研究している,mathematical morphologyを用いた画像解析について,2つのトピックをお話しします.
 ひとつめは,テクスチャの記述の問題です.テクスチャはいわゆる「模様」で,テクスチャの特徴をとらえるには,そのテクスチャが生成されるモデルを考えるというアプローチが有効です.ここでは,画面にまず点が配置され,そこに基本図形(primitive)から派生した粒子(grain)が配置されるというモデルを提案し,primitiveの推定法や点配置の操作法を示します.
ふたつめは,歯科X線画像の解析の問題です.ここでは,骨粗鬆症の診断のために,歯科医院で一般的なパノラマX線写真から歯根の像を取り除いて骨梁の像のみを取り出し,その特徴を測定する方法を示します.


6 月 11 日 二村 俊英(総合科学部)

多重調和関数の孤立特異点での挙動

概要:「複素平面上の有界な正則関数は定数に限る」という Liouville の定理がある。この定理は、正則関数に限らず様々な偏微分方程式の解、特に、ラプラス方程式の解である調和関数についても成り立つことが知られている。コーシー・リーマンの関係式から、正則関数の実部と虚部はともに調和であることは容易にわかるので、調和関数は一般次元への正則関数の自然な拡張のひとつであると言える。この講演では、ラプラス作用素を何回か繰り返すと零になる関数である多重調和関数の Liouville の定理と孤立特異点付近での挙動について紹介する。

5 月 14 日 (総合科学部)
分解能 R^*({1}| 3)の釣合い型
一部実施 2^m 要因計画

要旨:2水準で$m$因子の実験を考える。このとき、ある推定値の共分散行列が、因子の任意の置換に関して`不変'である計画を``釣合い型一部実施$2^m$要因計画 ($2^m$-BFFD)''という。$2^m$-BFFDは``均斉配列''から構築され、また、$(l+1)$-因子交互作用以上の要因効果が無視可能なとき、要因効果間にある関係(三角多次元部分釣合い型アソシエーションスキーム)を入れることにより、情報行列は、高々$(l+1)$次の行列で表現できる。
ここでは、4-因子交互作用以上の要因効果が無視可能な下で、少なくとも`主効果'が推定可能な $2^m$-BFFD を、行列方程式の解の存在条件を用いて構築する。

4 月 30 日 江口 正晃(総合科学部)
非可換群の標本定理の例

概要:関数のサンプル点での値によって関数そのものが決められないか(もちろんある種の条件下でないとこの問題は意味を持たないが)。この問題に関する標本定理は通信工学や理工学では非常に重要な理論の一つである。
 周期関数 f をフーリエ級数で表示したとき、そのフーリエ係数が有限個をのぞいて 0 ならばその関数は Band limitted であるとよばれ、その関数は、有限個の点の値(sample)で決定されることが知られている。非可換群ではどうなるかはこれからの問題とされている。幾つかの標本定理の例の解説とともに、線形群 SU(2) (行列式の値が1であるユニタリ行列のなす群)上の標本定理について考察する。


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